老健の役割【理想と現実】

老健(介護老人保健施設)とは、要介護認定を受けた高齢者がリハビリを行って在宅復帰を目指す施設。

そんな目的で全国に4000を超える数の老健が建設されました。

でも、世間一般的には老健も特養も「老人ホーム」という括りで考えられているのではないでしょうか?

実際に老健で働いてみても、特養よりも入居しやすく、(比較的)料金が安い施設という風に捉えられている方が多いと実感します。

その結果、「特養の順番待ち」的な利用が広がり、本来の目的のはずであるリハビリ→在宅復帰の流れになる利用者さんは少数です。(あくまで私の見た老健での話ですが…)

おまけに看取り(ターミナルケアや終末期医療とも)を行うことで追加報酬を得ています。つまり、「それって特養とどう違うの?」って状態なんですよ。

そんないろいろと矛盾を抱えた施設サービス、介護老人保健施設(老健)の理想と現実を、実際に働いた経験からお話ししていきます。

老健は医師の再就職先?

老健のトップ(施設長)は医師である必要があります。

その理由として、老健は病院と自宅を結ぶ施設として医学的な見識が必要だから、ということは理解できます。

しかし、老健の医師は高確率で高齢者というのも事実。

第一線を退いた医師の再就職先として医師会が作った制度なのではないか、と勘繰ってしまうのも無理はないですよね。

なかには利用者なのか、施設長なのか一見では判断できないような施設もあるそうな…

病院などのヒエラルキー社会で生きてきた施設長からすれば、介護士は末端の労働者に過ぎないし、もちろん私の名前なんて覚えていません。

あいさつしても素通り…なんてことも日常茶飯事。なにか問題を相談したくても「この人には言えないな」と思ってしまいます。

多職種連携とは言うものの…

トップに直で相談!なんて形はなかなか取りにくい老健ですが、その代わりに組織体制は明確です。

現場の介護士の上にリーダー、主任。
看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士のなかにも役職が振り分けられています。

各トップが集う会議も開催されていて、相談事などは下から上へあげていくような形になります。

裏を返せば踏まなければならない手順が多く、決定までに時間がかかる。まさに「日本の会社」という感じです。

そして、看護師、PT(理学療法士)やOT(作業療法士)などの専門職との連携は現場介護士としては心強い面もあれば、難しい面もあります。

老健の目的である在宅復帰のために、リハビリの観点からは日常的に行っていきたい動作もあります。

たとえば、「いままで車イスだった利用者さんにシルバーカーを使って移動してもらいましょう」という指示。

自宅に帰るためには、シルバーカー歩行が絶対条件であれば理解できる指示ですよね。

ただ、他の利用者さんの入浴や食事介助なども行う必要がある中で、歩行が不安定な方を十分に見守り・付き添いができるかというと難しい場面もあります。

しかし、リハビリ職からするとADL(日常生活動作)を維持・向上させることが仕事ですから「それは無理です」「はいそうですか」というわけにもいかないのも当然。

かと言って、介護側が「はいはい」と従った結果、転倒して骨折、病院へ逆戻りというパターンも実際にありました。

当時のリーダーは会議でつるし上げられましたし、人員不足のなかで無理なリハビリは大きなリスクを伴うことを実感しました。

なので、この指示に従って危険はないのか、現実的に可能なことなのか、ということを判断できる力が介護リーダーには求められます。

工夫で乗り切れれば良いのですが、結局のところ人員不足が元凶なのは語るまでもなく…

退所先は家ではなく、特養。

そんなギリギリのなかで、少しでもADLを向上させようとリハビリを行っていると、突然知らされる利用者さんの退所。

行き先は特養。

これが、まさに現在の老健の矛盾。

特養に入ればADLが下がってしまう、とは言いませんが「終の棲家」と言われるように、その施設で最期を迎えます。

特養ではリハビリ職は老健ほど豊富に在籍していないし、寝たきりなど介護量が多い方にマンパワーをかけざるを得ないのが実情です。

にもかかわらず、老健では転倒のリスクを負ってまでリハビリを行うことが求められる場面が多々あり、現場は疲弊します。

なにが正解とは一言では言えないですが、それは利用者さん、そのご家族が本当に求められていることなのでしょうか。

老健で行っていることは「加算のためにやっている」という面も大きいように思います。

家族の方からすれば、とにかく家では見れないから老健に受け入れてもらって特養の空きを待つというのが現実には多いのです。

施設をたらい回しにして加算を得る実態

もっと酷い話では、同じ法人が運営するサ高住やグループホームへ利用者さんを移動させて、形式的には「在宅復帰」したことにして加算を得るやり方。

そこで3カ月~半年すごして頂き、再び老健に入所させ、また別の施設へ移して在宅復帰という形を取る。その繰り返しで報酬を得ていく会社もあります。

一年の間に何度も住む場所が変われば頭が混乱してきて当然ですよね。

しかも、集団生活ですから行く先での人間関係も再構築しなくてはいけません。

そんな環境の変化の連続に、自分だったら正常であり続ける自信はありません。

高齢者はなおさら、慣れ親しんだ環境で過ごしてもらうべきという考えが介護の基本にあるはずなのに。

このたらい回しは、ごく少数の利用者さんに行われていることですが、この話を聞いた時はあまりにも非人道的なことだと感じました。

その裏には家族と施設での合意や取り決めがあるのかもしれませんが…

老健のメリットを享受する方は少数

とはいえ、実際にしっかりとリハビリを行い、いままで歩けなかった方が歩行器などを使用して自宅に帰ることができたというケースもあります。

ありますが、本当に数えるぐらいしかありません。多くの方は、老健で過ごされるうちに病気で病院に入院したり、そのまま看取られたり、特養など他施設へ移っていきます。

リハビリ職が厚く配置されているという、老健の良いところを活用して自宅に戻れる方は限られているというのが実際のところです。

少数であっても、活用できている人がいるから良いという考え方もあるでしょうし、いっそ特養のようにずっと居続けられる施設の方が良いのでは?とも考えられます。

介護業界はまだまだ答えを模索していかなくては。

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