【特養おやつ死亡事故】安全は大事だけど、幸せな生活を送ってもらいたいよねっていう話。

この件が有罪なら老人介護やめたい。どうも820です。これは同じ介護の現場にいる人間としてかなりショックな判決でした。

安月給のうえに、暴力や暴言を浴びせられながら一人で何人もケアする必要がある現場で、ミスをすれば過失致死罪…正直ガクッときたニュースでしたね。

憤りが収まらない感情を抑えつつ客観的に事実をまとめたうえで、裁判についての意見を話したいと思います。そして、安全を優先しすぎて利用者さんの幸せを奪っていないか、と現状への疑問を書いていきます。

事故についての詳しい状況と経緯、背景については>>利用者におやつを出した看護師が有罪判決…介護業務でミスを犯せば犯罪者?で解説しています。

特養おやつ事故の概要

まずは新聞記事の引用から。

※被告の名前は既に公表されており、伏せる必要が無いと考えそのまま表記します。

2013年12月、長野県安曇野市の特別養護老人ホームで、女性入所者(当時85)がおやつをのどに詰まらせ、1カ月後に死亡したとされる事件があった。長野地裁松本支部(野沢晃一裁判長)は25日、食事の介助中に女性に十分な注意を払わなかったなどとして、業務上過失致死の罪に問われた長野県松本市の准看護師山口けさえ被告(58)に、求刑通り罰金20万円の有罪判決を言い渡した。

出典:朝日新聞Digital

これ刑事裁判ですからね。検察が訴追し、裁判所が過失によって人を殺した、と認定したわけです。食事中の介助や見守りをめぐって施設のいち職員が刑事罰に問われたことは前例がありません。

無罪を求めて45万人の署名が集まっていましたが長野地裁は有罪判決をくだしました。被告は即時控訴。

裁判の争点

今回地裁での一審は3つの争点で争われました。

注視義務違反
➡口に詰め込む癖のあった利用者を注意して見守る必要があった。

おやつの種類の確認
➡おやつがゼリーに変更されていたが固形のドーナツを提供した。

死因との関係
➡ドーナツが原因で窒息した。

判決を見てみると①の注視義務については現場の状況も考え、過失は認められませんでした。
しかし、②については「勤務の度に変更の有無を確認する義務がある」と判断。
③については死因はドーナツが詰まったことで窒息死した、と裁判所は判断しました。

結果、有罪判決。量刑については、「間食の形態を容易に確認できる職場の体制になっておらず、責任がすべて被告にあるとは言い難いことも考慮する必要もある」とし、罰金20万円ということになりました。

判決に対しての個人的意見

個人的には争点①「注視義務違反」認定されなかったことは唯一の救いであると思います。もしそれが認定されるようであれば、多忙な現場であっても「見ていなかった」ことによる事故は介護者の責任となるからです。

その意味で裁判所はまっとうな判断をされたとは考えますが、②の「おやつの種類の確認」については疑問が残ります。

食事形態は利用者さんの状態に合わせて変えていくものです。今回の事故でも「嘔吐するから」という理由で一週間前におやつをゼリーに変更されたということです。被告側が作成した資料からは食事については普通食のままだった、と読み取れます。(参考:長野県民医連作成の資料からhttp://www.mintyo.or.jp/min-iren/trial/

たしかに、プロであればすべてを把握しておくべきという指摘は理解できますが、実際にすべてを脳内で記憶しておくことはかなり困難です。配膳する際にわかるような表示が必要です。

さらに、今回配膳したのは応援に入った山口被告です。今回の事故の際に山口被告がどういう経緯で応援に入ったのかはわかりませんが、応援先の利用者のおやつの形態まで把握することはさらに困難です。となれば、居合わせた職員や食事形態を周知しなかった介護職、あるいは十分に情報を取り入れることができないような環境で働かせた施設にも問題があるのでは?なぜ、罰金刑とはいえ現場の看護師1人が責任を負わせられるのか理解できません。

③「ドーナツが死因かどうか」については私には分かりませんが、弁護側は死因は窒息ではなく脳梗塞である、と主張しています。たまたま居合わせた職員が罪を問われる要因になったことは気の毒としかいえない。

自分が刑事訴追される可能性も

身体能力の衰えた老人の転倒・誤嚥などの事故をすべては防ぎきれません。しかも重大な結果になる可能性が高い。実際に家族が訴えて民事上の損害賠償を求める裁判は多々あります。

今回の件については遺族との和解が成立していたそうです。通常、当事者間での合意があれば介護事故を刑事事件として取り扱うことはまれです。すべて訴追していてはキリがありませんからね。

実際に私も末期がんで弱りきった利用者さんの夕食の介助を行い、半分ほど食べたところで疲れが出てきたので、ベッドの頭部をしっかりと挙げたうえで休んでいただきました。夜間に巡回していたところ急変はなかったのですが、明け方になり意識レベルの低下を認め、緊急搬送。数時間後に病院で死亡しショックを受けました。

その後、家族から死因についての疑問を呈され、施設が介護記録を開示し説明してくれたおかげで理解を頂き、事なきを得ました。今回のような裁判になれば私も有罪判決を受けていた可能性もあります。「無理に食べさせた」など、理由をあげようとすればいくつでも挙げられます。

もし、自分が夕食をもっと早めに切り上げていたら亡くなることはなかったのか?食べさせ方がまずかったのか?など、反省する点もあります。

今回の裁判の結果を見て、介護という仕事のリスクの大きさを再認識し業務にあたらないと、という気持ちと同時に老人介護から退くべきかも、とも思い始めてきました。

ミスを犯せば刑事罰?

今回の裁判を見て、確かに看護師が清廉潔白とはいえないと思います。食事の形態を把握していなかったこと、詰め込む癖のある方に背を向けていたなど、指摘することはできます。

すべてを適切に行っていれば今回の事故は発生しなかったかもしれません。介護に携わる身としては教訓になったことは事実。

しかし、今回の件を前例として介護施設での事故で職員が刑事責任を問われるケースも増加しかねません。「犯罪者」として実名を報道され、今後の人生を生きづらくなることは私には耐えられません。

ミスを犯せば刑事罰を受けるというリスクを考えながら業務を行えば、なによりも安全を重視する姿勢になり、利用者さんの自由や楽しみを奪ってしまう結果になりかねません。

介護にまつわる民事裁判

・大雨のなかでの通院付き添い介護。利用者が介護士の腕をつかみ損ねて転倒。

・付き添いが必要な利用者だが、介護拒否があり自身でトイレに行き転倒した。

・利用者がベッドから転落して顔面に負傷。体動センサーの数に限りがあり、被害者には設置していなかった。

・嚥下障害のある利用者にとろみを付けて食事介助したが誤嚥、窒息死した。

上記はすべて、民事での損害賠償が認められたケースです。
参考:外岡さんに聞いてみよう

もちろん、民事ですので家族と示談が成立すれば裁判に発展することはないのですが、携わった職員はやはり責任を感じてその後も介護を続けることは難しいのではないでしょうか。

さらに、看取り介護(最期の時まで施設で過ごしていただく)が一般的になってきている今、介護職として現場で動くことのリスクはとても大きいものです。

事業所で加入している保険があるとは思いますが、常に訴訟のリスクを抱えていると思うと「安全第一」な介護になるのも仕方がありません。

理想の介護ってどんなんだろう

実際に利用者さんに接していると様々な希望を聞きます。

「一人で散歩がしたい」、「うなぎが食べたい」、「コーラが飲みたい」など間近で聞きながらも責任を考えると、なにもさせてあげられないことを心苦しく思います。

個人的には、最期の時までその人らしく過ごしてもらえるようにお手伝いをすることが介護職だと思うけども、現実には保護者のような役割になってしまっている。

ケガのないように、病気にならないように、もめごとが起きないように…

「介護士は家族ではない」、「プロでしょ」と言われてきましたが、それって利用者さんの幸せなのだろうか?といつも疑問に思います。

将来、自分も年老いて施設に入ることになるかもしれない。現在の施設は自分が入りたいと思える施設だろうか?

外の空気を吸って一人でボーっとしたいときもあるだろうし、たまにはお酒も飲んでゴロゴロしたい。夜更かししたいときもある。好きなものを食べて苦しまずに死にたい。そう自分は思います。

安全優先で本来の目的を見失っていないか?

もちろん、人の価値観はそれぞれです。「しんどいことは嫌、なるべく世話をしてもらいたい」という人もいるでしょうし、「自分の好きなようにしたい」人もいます。

どっちもその人らしさだと思うんですよね。そこでの生活が幸せだ、と感じられるように支援することが本当の目的ですよね。

だったら、それぞれに合わして介護をしていくべき。でも現状は訴訟リスクを考えて安全が基準になってしまっている。

施設での入所時に、レストランのコースを選ぶように安全か自由かを選ぶようにしてもらうと現場ももっとやりやすくなるし、利用者さんの満足度もあがると思うんですけどね。

ただ、家族さんの気持ちも理解できます。高いお金を払っているんだから、自由で幸せでなおかつ安全を求める気持ちも。要は利用者一人につき一人職員が居ればできることですが、現実は不可能…なんかすごいジレンマなんですよね。

と、最期はまとまりのない話になってしまいましたが、特養おやつ事故の裁判から、現状の安全第一主義の現場への疑問とお話してきました。これは、日本全体の一種の病気かもしれませんね。「事なかれ主義」という言葉もあるぐらいですし。一朝一夕では変わっていきませんが、利用者さんの幸せってなんだろう?とそれぞれが考えて行動していくことで理想の介護へと近づいていければ、と思います。

事故ついての詳しい経緯と状況を知りたい方はこちら>>
利用者におやつを出した看護師が有罪判決…介護業務でミスを犯せば犯罪者?

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